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古川柳でいう「信濃」「信濃者」「おしな」は単に信濃国の人というのとは違った意味を持っていた。雪深い信州の農家では、冬籠もりの用意が出来ると出稼ぎの季節になる。江戸に出かけた人々は、給料は少ないものの白米を腹一杯食べられることが魅力であったという。信濃者の類型句は大食、という約束ごとが出来上がっていたのである。
上エ下タを相模と信濃そしり合い 末
ちょっと分かりにくい句だが、次の類型「下女」と結び付けると解決する。どちらも大食いだが、信濃出の下男は上の口、相模下女は下の口だ、というのである。「信濃」、「相模」の類型を知らないと難句である。
昼信濃夜は相模が大ぐらい 三三
※「下女」
1 柳樽下女読んで見て腹を立ち 三七
2 相模下女相手に取って不足なし 八
1、 柳多留に好色下女の句が多いと立腹しているというのだが、そういう句がこの柳多留に載っているのが、またおかしい。
類型に「下女」「相模下女」があり、彼女らは好色、という約束になっている。相模下女好色説は『諺苑』(寛政九年序)に「相模女ニ播磨鍋シリノハヤイト云喩」とあることから、当時そういう俚諺があったことが分かる。下女は、戦後しばらくまでは普通の家庭にさらに雇われていたのであるが、社会情勢の変化とともに急速に消滅した業種の一つといえよう。もう少し例句を追加しておく。

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